創作シリーズ「熾火」

敗れざる者の胸奥に灯る《いのち》の灯り――。

創作「見えない隣人~新・熾火:第三話」(02)

前夫・須藤正樹との離婚が成立し、めぐみと英はその呪縛から解放されたと言ってもよかろう。めぐみが「しずく」に参加して4年が過ぎた2015年、めぐみは31歳、英は10歳になっていた。由紀江と雅実は、めぐみのケアによく当たっていたが、彼女に落とされていた…

創作「見えない隣人~新・熾火:第三話」(01)

《ミューズ》を名乗った須藤めぐみが当事者会の「しずく」に参加した2011年6月から、早くも11年が経った2022年、息子の英(すぐる)は17歳に成長していた。 「英くん、高校卒業したらどうするの? 何がしたい?」 英は、由紀江と雅実を中核とするフリースク…

創作「見えない隣人~新・熾火:第二話」(05)

父・義和が逝いた時に駆けつけた三人のおじ・おばのうち、二人は病床にあり、もう一人は既に亡い。転居問題に際して、意見に齟齬があったとはいえ、母の峰子は健在で、非常にしばしば桐華教会の地域の集会に参加できていることは、感謝すべきことなのだろう…

創作「見えない隣人~新・熾火:第二話」(04)

千々和雅実の実り多いフィンランド研修が終わった頃、田中美津子からの遺産相続に関する問題も、あらかた決着を見ていた。この件を委任されていた山永司法書士とのやり取りを一手に引き受けていたのは、昌行の弟・滋であったが、そのやり取りの中で否応なく…

創作「見えない隣人~新・熾火:第二話」(03)

「あのね、」 口調こそ穏やかそうであったが、昌行が語ろうとしていることには、一種の不快感を伴っているだろうことを、雅実は見逃していなかった。 「宗教学者にさ、島崎裕之っているでしょ」 「いるよね」 「彼がね、『親が桐華教会』って本を出している…

創作「見えない隣人~新・熾火:第二話」(02)

「雅実さん、『しずく』の中には、性的被害を受けてるとか、あと、宗教虐待を受けてたって人はいるのかな?」 「どうだろうね、いるかもしれないけど、なかなか口にはできないと思うよ」 「そっか、そうだろうなあ」 「昌行さん、何でまた急に」 「うん、実…