創作シリーズ「熾火」

敗れざる者の胸奥に灯る《いのち》の灯り――。

創作「見えない隣人~新・熾火:第二話」(04)

 

千々和雅実の実り多いフィンランド研修が終わった頃、田中美津子からの遺産相続に関する問題も、あらかた決着を見ていた。この件を委任されていた山永司法書士とのやり取りを一手に引き受けていたのは、昌行の弟・滋であったが、そのやり取りの中で否応なく知ることとなってしまったことは、昌行を動揺させるのには十分過ぎるものであった。父・義和を送った2007年に介した義和の弟や妹たちの近況は、山永と滋を通じて昌行にも把握されていた。ちょうど義和の十七回忌に当たる2023年に、おじやおば達の様子が明らかになることに、昌行は不思議な時の巡り合わせを感じざるを得なかった。

義和には、美津子の他にもう二人、妹があった。そのうちの一人は死別している妹であって、その存在を昌行が知ったのは、山永の書面を通じてであった。もう一人の安岡芳恵の夫はすでに亡く、また子もなかったので、芳恵は長く独りで生活していた。その芳恵の近況を昌行が知ったのは、山永の書面に先んじ、桐華大学同窓の畑中妙子を通じてのことだった。

2021年11月、畑中からメッセンジャーでの通知があった。

「連絡くれてたみたいで。ありがとね」

「昌行くん、元気?」

「久しぶりだよねえ。何年ぶりだろう」

「ごめん、急に」

親しく言葉を交わし合うと、5年の隔たりは即座に溶けていった。畑中には、すでに孫があるという。

「もう、本当におばあちゃんになっちゃったよ」

快活に畑中は笑った。

「秀明さんが昌行くんのおじさんだなんて、ホントびっくりだったよ。でね」

昌行の祖母・光江の葬儀に際し、献杯の音頭をとった秀明と畑中は、桐華教会にあって、隣接する地域組織に属している間柄だった。

「私のところにね、その秀明さんについての問い合わせがあったの。『よしえ』さんって、昌行くんの知り合いにいるかしら」

その「よしえ」さんが、最近病気で施設に入ったのだという。しかも、どうやらこの先、健康を回復して施設から出てくることもないらしいのだ。ついては、「よしえ」さんは教会の御本尊を返納したいと言っている。その中で、「よしえ」さんは親類に所帯を引き受けてもらうと、「よしえ」さんは桐華教会の組織から離脱してしまうという扱いが避けられるのだそうだ。

畑中の申し出はありがたいが、何だか面倒なことだなと、昌行は思った。

「つまりね、『よしえ』さんの組織上の身元を秀明さんが引き受けられないかしらってことなの」

「確かに『よしえ』さんてのは、ぼくのおばにいるけど、名字教えてよ。秀明さんには、母から連絡取ってもらうからさ」

果たせるかな、その「よしえ」とは、昌行のおば・安岡芳恵その人だった。

その後2年ほどを経て、山永と連絡を取り合う滋を通して昌行が知ったのは、秀明夫妻がそれぞれに病床にあるということだった。

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今回はここまでです。最後までお読みくださり、ありがとうございました。それではまた! 次回の(05)もお楽しみいただけますと幸いです。