創作シリーズ「熾火」

敗れざる者の胸奥に灯る《いのち》の灯り――。

創作「見えない隣人~新・熾火:第二話」(02)

 

「雅実さん、『しずく』の中には、性的被害を受けてるとか、あと、宗教虐待を受けてたって人はいるのかな?」

「どうだろうね、いるかもしれないけど、なかなか口にはできないと思うよ」

「そっか、そうだろうなあ」

「昌行さん、何でまた急に」

「うん、実はね・・・」

昨年の7月、ヒカリ連合の二世信者という高根裕二の手によって、羽場孝蔵元首相が命を落とした。政権与党の民主憲政党所属の議員の多くが、このヒカリ連合からの支援を受けていたことが明らかになるに及んで、政治とカルトだけではなく、政治と宗教一般の関係性について、ネットで声を荒げる者も多く出ていた。

宗教法人・桐華教会が設立した桐華大学での先輩・後輩関係にある谷中昌行と千々和雅実は、教会が支援する朋友党の政策について、是々非々の態度を取っていた。つまり、積極的な投票依頼を知人たちにするということまではしていなかったのだ。

殊に近年では、2015年に連日の国会デモが報じられていた安保法制、すなわち集団的自衛権についての政策転換を昌行は重く見ていた。昌行には、かつての同窓の知人たちが相当数いるのだが、信仰や朋友党支援についての「温度差」があることで、そうした知人たちとの距離が、自然とできてしまっていたが、身近にいる雅実や中井らが示す理解のおかげで、孤立感を感じることなく過ごすことができていた。

「この前、ぼくの父には、お母さんが違うお兄さんがいるって話したでしょ。その娘、つまり、ぼくのいとこの聡子なんだけどね」

川上聡子は、母・敬子、祖母・ヨシらとともに、実父・政純の死去にあたり、葬儀や納骨費用の工面を義和に申し入れていた。「本家なんだから――」、その一点で、彼女たちは義和に泣きついてきたのだった。

その非常識ぶりに昌行は憤った。しかし政純一家は、義和の両親たる幸太郎・光江夫妻からは、いささか冷遇されていたことを知るに及び、聡子らの態度にも理由があったのだと、昌行は解釈するようになったのだ。そう考えると、いくつかのパズルのピースがきれいにはめ込まれるようになった。

2007年8月の義和を送る会の当日に聡子が用いていた念珠は、「世間一般で」使われるタイプのものだった。桐華教会は、日蓮系の教団であるが、教会で日頃使われる念珠は、世間でよく見るものとは長さが違う。聡子は、その一般で用いられる念珠を持参していたのだった。昌行は、そのことを覚えていた。

敬子さんたちも教会の信心をしてただろうに。にも関わらず、聡子は教会信者とは違う念珠を使っていた。そのことが意味するところのものは、ただ一つだ。聡子は信心を継いでいないのだと――。

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今回はここまでといたします。お読みくださり、ありがとうございました。それではまた!