創作シリーズ「熾火」

敗れざる者の胸奥に灯る《いのち》の灯り――。

創作「熾火Ⅱ」(08)

 

こんにちは。連続創作「熾火Ⅱ」の(08)をお届けいたします。2009年、昌行と雅実はメールを通じて、再会を果たしています。今回は「その後」を書いています。

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Sub:やっぱり、「とにかく」なのかぁ!

雅実です。ご返信ありがとうございました。「ウサギの角」さんは、「兎に角」さんなんですね。そのまんまじゃないですか(笑) でも、そう言ってご自分を励ましていらしたのでしょうね。おばあさまとお父さまの件、心からお悔やみ申し上げます。何年も大変なことが続いてきたのに、谷中さん、ご立派だと思います。本当にそう思います。私なんて、いつも愚痴言いながらですからね。斉木が帰省してしまった時、もう神奈川にいる理由もないし、長崎に引っ込んでしまおうと思ったくらいでしたから。

私が落ち込みそうになった時、どうぞ激励してくださいね。

谷中さまへ。

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Sub:励まされているのは、きっとぼくです。

千々和さん、励まされてきたのはぼくでした。覚えていらっしゃるでしょうか、飯田橋で再開した時、あなたは「私は何をすればいいの」と言ってくださった。確かに、その時には斉木さんもご病気で、他人事とは思えなかったんでしょう。でもね、ぼくはうれしくて泣きそうだったんですよ。こんな病気になったのは、何が悪かったんだろう、何をしたからなんだろうと、自分を責めてばかりいました。がんばってねと言ってくれる人はいましたけど、「してほしいことはあるか」と聞いてくれたのは、千々和さんが初めてだったんです。それがどれほどうれしかったことか。あなたは大変なことをしてくれたものですよ・・・。

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Sub:提案があります

谷中さま。PCはお使いでいらっしゃいますか? パソコンを使ったビデオ通話ソフトがあるんです。インターネットを使っていらしたら、電話代はかかりません。お話しできるとうれしいです。いかがでしょうか。取り急ぎ、ご用件のみ。ではまた書きますね。

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Sub:いいですね、やってみましょうか。

千々和さん、こんにちは。そうか、その手があるんですねー! やってみましょうか。ぼくはのPCには、スカイコールが入ってますから、これが使えそうですね。

これでいいのか、また教えてください。ご返事お待ちしています。

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 2009年の年末の頃まで、昌行と雅実は折りを見てメールのやりとりを何回か重ねていく。その頃の谷中家では、次男の昇が相変わらずの一進一退を繰り返していたものの、長女の咲恵が結婚していったという朗報もあった。

 また、昌行にあっては、前年に『ゲド戦記』シリーズ全6巻を読了できたことから、不意に読書を再開できるようになっていた。そのことを昌行の家族は知る由もなかったが、昌行の内側で、何かの歯車が噛み合うきっかけとなっていたことは間違いではないだろう。数年のうちに昌行は、読書会として、他者との関わりを積極的に模索するようになるからだ。

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今回の内容はここまで(09)へと続きます。お読みくださり、ありがとうございました。

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