創作シリーズ「熾火」

敗れざる者の胸奥に灯る《いのち》の灯り――。

創作「熾火Ⅲ」(05)

 

こんにちは。連続創作「熾火Ⅲ」の(05)をお届けいたします。自分の誕生日と震災の日とが重なって、昌行は一時体調不良を訴えるようになりました。一方、当事者会の「しずく」は活動を継続していました。

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 「震災から3か月経ちましたが、いろんな問題をそれぞれが抱えていると思うんです。私たちは、いえ、私はそれに寄り添いたい。解決できるとは言い切れませんが、孤独や孤立は、この場合は毒になると思います。みなさんが今日こうして集まってくださったことに感謝しています。どなたかお話しをされたい方はいますか?」

 雅実がこう切り出すと、吉岡が語り始めた。

 「震災とは直接関係ないんですが、ぼくはうつ病じゃないんじゃないかって疑ってます。20歳の時から、もう10年ですからね。薬をあれこれ変えてみても、なかなか決定打が出ない。うつって、治る病気だと思ってたんだけどなあ」

 「ああ、それはキツいですよね。ぼくは診断されたばっかで、これから先が不安ですね」と、壮介が言葉を継いだ。今日も打ち解けた雰囲気で、会が進行していっている。

 この会が心がけているのは、「ジャッジしない」ということだ。そうしたくなるだろうが、アドバイスをすることは、極力避ける。これは、雅実たち3人の合意であり、目標であった。

 「私もいいでしょうか」と、《ミューズ》が口を開いた。「私、うつって言われて3年目になると思います。6歳の男の子がいます。今年から小学校に上がったんですが、朝送り出すのがしんどいんです。送り出してから、横になってしまいます。家事は、義母が分担してくれてるんですが、夫の帰りが遅くて、晩ご飯が2回になっちゃうんです。お風呂入るのも、もう面倒で面倒で。いけないと思いながら、そう感じてしまいます。私はダメな人間なんだなあって・・・」

 「ええ!? 《ミューズ》さん、すごくがんばってるじゃないですか、立派ですよ」

 「ほんとですか! そんな風に言われたの、私、初めてです・・・」

 由紀江の言葉に、《ミューズ》は目を潤ませ、しばらく次の言葉が出てこなかった。

 「義母はやさしい人なんですが、主人が・・・。食べた後の食器を運んでもくれないし、食後はゲームしてて私の話を聞こうともしてくれない。辛いです」

 「少しずつでいいから、思ったこと、感じたことを言葉にできるようになるといいですね。そこから何か、心がほぐれてくればいいと思うんです。《ミューズ》さん、少なくともここには、《ミューズ》さんを理解しようとしている人たちが、4人はいるってことを持ち帰ってみてね。それを忘れないで」

 この日のセッションは、こうして《ミューズ》その人を受け止めることを中心に終わっていった。

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今回は以上といたします。いつもお読みくださり、ありがとうございます。それではまた!