創作シリーズ「熾火」

敗れざる者の胸奥に灯る《いのち》の灯り――。

創作「見えない隣人~新・熾火:エピローグ」(01)

「フィンランド?」 「そうよ、昌行さん」 雅実から持ちかけられていた相談事を、由紀江はつい昌行にも漏らしてしまった。2023年6月に、オープンダイアローグ発祥の地・フィンランドへの視察と研修が行われることを聞きつけた雅実は、参加について先に由紀江…

創作「見えない隣人~新・熾火:第五話」(02)

投開票日を明後日に控えた第26回参議院議員通常選挙の演説中、民主憲政党所属の羽場孝蔵元首相が銃撃され、搬送先の病院で帰らぬ人となった。2022年7月8日金曜日17時3分のことである。 「正直なところ、羽場が重ねてきた悪行の報いだと、つい思ったんだよね…

創作「見えない隣人~新・熾火:第五話」(01)

2019年4月に平成が終わると、5月1日から「令和」が始まった。昭和の終わりに際しての、陰鬱な自粛ムードを知っている昌行は、その朝、清々しさのようなものを感じたことに戸惑っていた。この代替わりは、時代を画するものなのだろうか。昌行はそうした疑問を…

創作「見えない隣人~新・熾火:第四話」(02)

1月14日の朝、目を覚ましためぐみの傍らには、由紀江と英、それに吉岡啓があった。 「薬を全部飲んだとしても、それで死んじゃうことはないのに」 安堵した啓がめぐみに語ったのを聞いていた英は、手をつないだまま、啓につぶやいた。 「ひらくちゃん、お母…

創作「見えない隣人~新・熾火:第四話」(01)

東日本大震災から三か月が経った2011年6月、中井由紀江に促されるようにして、須藤めぐみは「しずく」の見学に訪れた。9月には4歳になるという英(すぐる)の母のめぐみは、産後の不調が長引いたものと考えていた。 2003年に高校を卒業しためぐみは通学制の…

創作「見えない隣人~新・熾火:第三話」(05)

桐華教会の「強固な組織力」に支えられた朋友党は、結党以来、常に一定の存在感を示してきた。しかし昌行は、そのような朋友党理解を苦々しく感じていた。つまり、朋友党は一枚岩の組織政党などではない。「組織」「組織票」としてのみ朋友党が理解されてい…